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宗教と人間と芸術と・・・ [書を捨てよ世界に出よう・90年代バックパッカー編]

ベルギーからナポリまで南下してきた旅もここで折り返し地点となる。ナポリ中央駅から始発列車に乗りローマへ向かう。ここからは北上してゆく。

ナポリで列車に乗り込む際に行き先を確認しようと車掌さんに話しかけたつもりが、その列車の車掌さんではなかった。どうやらローマからお仕事が始まるらしい。「一緒にローマまで乗っていこう」ともう一人のお仲間と一緒に同じコンパートメントに座ることとなった。

座るというのは正しくないかもしれない。皆、早朝&仕事前ということもあって眠っていくらしい。きっといつもそうしているのだろう。椅子をフラットにすれば簡易式ベッドの出来上がりである。そこに車掌さん二人と私の三人で雑魚寝しながらローマに向かった。

2時間ちょっとでテルミニ駅に到着。ナポリに向かうのに一日かかったのが嘘のようである。ラッシュアワーの中、駅に向かう人たちと逆流する形でローマの宿に預けていた荷物を取りに行った。まだほとんどが寝ている。朝8時ってバックパッカー的に早いのだろうか?朝型の自分には理解できないが結構皆のんびりとしているようだ。

駅に戻って荷物を預けると、バスに乗り再度ヴァチカンに向かう。行きそびれたヴァチカン美術館に行くためである。前回、「ローマは一日にして成る」の中で行くのを忘れたと書いたが、どのみちイースターサンデーで閉館していたらしい。ちょうど良かったのである。

まだ朝早かったので並ばずに入ることができた。有名な「最後の審判」だけでなくモザイク画やフレスコ画、ギリシア彫刻の数々が圧巻。歴代教皇のコレクションが並ぶ空間に居ると宗教と権力について考えてしまう。神か人か・・・本当に神を見てしまった芸術家が居たとしても、こうしてコレクションの中に入ってしまうとそれは単なる人間の権力の象徴に代わって見えてしまう。

豪華絢爛で大きいこと。民衆を惹きつけるにはこれだけで十分である。これはきっと様々な宗教に共通することではないだろうか。発端はシンプルだったはずである。だが巨大化していくと共に、システム化され、存在価値を誇示するために豪華に大きくなっていく。運営していくためにはお金がかかるのだから仕方がない。宗教とは、信仰とは、神とは、人間とは、芸術家の使命とは・・・

私の小さな脳みそがパンクしそうになったところで、美術館を出てバスに飛び乗った。まだスケジュールは半分も満たしていないのだ。駅に戻ると荷物を取りフィレンツェ行きの列車に乗った。本日二度目の列車旅である。ローカル線だったので3時間以上かかってしまい到着が夕方になってしまったが、駅近くの宿にチェックインすると早速街に出た。

時計を見て閉館時間を確認するとまだ間に合いそうなので、早速ウフィツィ美術館へ向かった。ウフィツィとはオフィスのこと、実際元々は行政機関のオフィスであった。そんな予備知識が無くても見るからに官公庁的な建物であるのが笑える。お遊びの無いお堅いイメージ。メディチ家(銀行家)のコレクションを収めるには相応しいのかもしれない。

この美術館で有名な絵画と言えばやはりボッティチェリの「春」そして「ヴィーナスの誕生」だろう。もう完全なるファンタジーの世界。多くの宗教画の中にあってこの2作品は明らかに浮いていた。超越してしまった領域とも言えるし、宗教画に対する反発精神も感じる。ボッティチェリは宗教画も描いているが、描きたかったものを自由に描いたのがこの2作品なのだろう、きっと。

さて夕暮れ前にドゥオーモ、サンタ・クローチェ教会、そしてヴェッキオ橋と急ぎ足で回った。花の都フィレンツェを急ぎ足で回るなんて勿体ないことではあるが、なんだか先に先に進みたい気持ちのほうが強かった。フィレンツェは美しい街だった。でも半日で十分である。午前中にヴァチカンで感じたことと同様に人間と宗教と芸術について悶々としながら歩いていたらどっと疲れてしまった。

大きくて立派な教会、そして彫刻。その下を歩く小さな自分が巨大な権力に負けそうになって、つい彫刻に向かって「動きたければ動いてみろ!」と言ってみる。こうなるとただの酔っ払いである。お酒を飲んだわけではない。どうやら疲れもピークに達したようだ。

宿に戻る頃に雨が降り出した。今回の旅が始まって初のことである。無理して回ってちょうど良かったのかもしれない。早速トーマスクックを取り出すと、明日からの予定を立てる。ヴェネチア・・・いいかもしれない。

・・・フィレンツェと言えば母上のダビデ君の写真はどうなったんだろう。このままダビデ君のイメージのまま思い出のアルバムに閉まっておいてあげるのもいいだろう。(60年代バックパッカー編「ダビデ君とキス」参照。)

そして旅はまだ続く。


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