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列車は止まり、タイムマシンの旅へ。 [書を捨てよ世界に出よう・90年代バックパッカー編]

早朝に目覚ましで飛び起きてナポリへ。

治安が悪いと聞いていたのでなるべく身軽にして向かうほうがいいだろう。

ちょうどスイスのユースで一緒だった日本人とローマの宿で再会した。彼女はローマが気に入ってしばらくいる予定ということなので大きな荷物を預けることにした。ナポリは二泊して、再びローマに戻ってくればいい。その時にヴァチカン美術館を見る事にしよう。

ナポリに向かう途中、パーンという乾いた音と共に列車が止まった。前方に白い煙が見える。

私の前に座っていたドイツ人女性がイタリア語も英語もできたので、周りの人と話しながら状況を教えてくれた。一人イライラしているビジネスマンがいたのだが、小声で「あれは絶対にドイツ人よ。」とシニカルなつっこみをすることも忘れない。あきらかにこのハプニングを楽しんでいた。怒ってみてもどうにもならない事は楽しめばよいのだ。彼女は2児の母で学生をしながら前衛劇を扱うシアターで働いているということだった。駅で待ち合わせている友人に電話をしていたが、会話はフランス語。天は二物も三物も与えたようだ。

一時間過ぎても何の動きもないので、とりあえず荷物を持って列車を降りると田舎道を歩いて次の駅に向かうことにした。(虫の知らせというのか荷物を減らしてきて正解だった。)他の人たちもどんどん列車を降りてくる。次の駅がどこにあるのか検討もつかないが、線路に沿って歩けば何とかなるだろう。

50分ほど歩いたところに小さな駅が見えた。その途端、皆が歓声を上げた。さて、この駅に列車は来るのだろうか・・・。しばらくすると、先ほど乗っていた列車が修理を終えてやってきた。ホームの上に連なった人たちからは歓喜の拍手が湧いた。無駄に歩いたと言うなかれ、じっと待つより楽しかった。

このハプニングのせいで、ナポリに到着した時には既に夕方になっていた。丸一日を移動に費やしたことになる。でも荷物を預けてきた以上、予定通りに行動してローマに戻りたかった。

駅前の小さなホテルにチェックインをすると、すぐにポンペイに向かう列車に飛び乗った。乗り換えがあったりしてわかりづらかったのだが、地元の小学生の女の子が丁寧に教えてくれた。有り難い。

ポンペイ遺跡は西暦79年にベスビオ火山が噴火して火山灰に埋もれた古代都市。世界遺産にも登録されている。ただ行った理由はポンペイではなく、実はベスビオ火山という名前のほうに惹かれたからだった。以前ヅカで「ヴァレンチノ」という作品があった。その中でヴァレンチノが歌う歌詞の中に出てきたのがベスビオ山だった。そう、単純な理由である。世界遺産よりヅカなのだ。

さて、ポンペイに着いた頃にはもう既に閉門の時間に迫っていた。入場するのは私ぐらいで、出て行く人ばかり。すると遺跡で働いているおじ様が時間を短縮して見る方法を教えてくれると案内を申し出てくれた。

忘れるべからず、ここはイタリアである。彼と私の二人ぼっち@火山灰に眠る遺跡においてきぼり~♪。しかも夕暮れ時~♪。さてどうする。

インシャラー。すべては神の思し召し。

一応英語とイタリア語で「なめんなよ」的な、「でも、まあよろしくな」的な丁寧な(?)会話を交わし、案内をしてもらうことにした。(どっちなんだよ。)

この遺跡はすごい。1900年以上も前にこれだけ文明の発達した都市があったことに驚く。下水道が整備され、サウナ、室内プール、パンを焼く窯、玄関前にはモザイク画でWelcomeのマーク、猛犬注意のマークもある。公衆浴場、バー、劇場、娼婦の館など現在と変わらない人々の姿があったことを思わせる。火山の噴火によって一瞬で亡くなった人々の姿も石膏で再現されている。石畳の通りには馬車の轍の跡まで残ったままだ。

なんだか姿は見えないが人々の話声やら街の喧噪が聞こえてくるようで、タイムマシンでお邪魔してしまったような不思議な感覚だった。結局、時代は変わっても人は変わらないのだ。そんな事を思っていたらいつの間にか閉門時間を過ぎていた。

だが、この案内人のおじ様はどんどんと遺跡の奥へと入っていく。立入禁止地区まで鍵を開けて見せてくれる。いいのか?大丈夫なのか?我が身のことより、この案内人の熱心すぎる仕事ぶりを心配してしまう。

大丈夫、いざとなったら習得した技で捻ってやる。少しばかり武道のようなものを習っていたので、今こそ試し時とある意味やる気満々な私。(やめておけ。)

が、そんな心配をよそにいきなりディナーのお誘いを受ける。拍子抜け。

さすがイタリア人。こんな私に声をかけるとは。彼曰く、セキュリティーオフィスで当直をしなければならないが、仲間を呼んでイースターパーティをする予定になっているらしいのだ。

さて、そんなわけで急遽、ナポリ一日目の夕食はポンペイ遺跡にて食べることとなった。職員仲間が自家製ワインやらパスタの材料やら色々と持ってどんどん集まってくる。皆少年のような綺麗な瞳をしたおじ様たちだ。どうやら案内をしてくれた彼がリーダー格のようで、私をシスターと紹介してくれた。

シスターか・・・ゲストよりは親近感があっていいが、年齢的にどうよ・・・。ちょいと不満である。

が、そんな不満は次の瞬間帳消しとなった。折角だから、とポンペイ遺跡をライトアップしてくれたのだ。さすが世界遺産も自由自在。(いいのか?)

ライトアップされた遺跡の中でおじ様たちとイースターを祝って食べるパスタは格別に美味しかった。

そんな特別な宴は終わり、列車があるうちにと駅まで送ってもらったのだが、列車の扉が閉まった瞬間、彼の顔が精悍な青年の顔に見えた。お酒は飲めないので、酔っていたわけではない。あれは何だったのだろうか。もしかするとポンペイに眠る誰かがついてきていたのかもしれない。とても不思議な感覚だった。怖いとも思わなかった。ただ別人が確かにそこにいた。

数年ぶりに日本のTVに案内してくれたおじ様が登場しているのを見た。普通に南イタリアのおじ様であった。そして再び思う。あの青年は誰だったのだろう。もしかしたら一緒にあの日、あそこでイースターを祝っていたのかもしれない。無意識にタイムマシンで時空を越えていたのかもしれない。妄想は尽きない。ただナポリの一日目はあのポンペイの夜に見た青年の姿と共に強烈に記憶に焼きついた。

だいぶ長くなったのでナポリ話は次回へと続く。


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